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散らぬ花5


「今回は少しばかり特殊なケースでして・・・数人の男に嗅ぎまわられているらしいのです」

大方、女に頼まれた雇われ人というころだろう。
話を聞き終えて真夏は溜め息を吐いた。

「それで、警察には?」
「話していませんよ。過去に話したことはありましたが、善処は望めませんしね?」

それは真夏もよく知っているし、よくわかっている。
だが、まだ分からない事の方が多かった。

「俺が言うのもなんだが、なんで俺なんだ?」

二十代前半でありながら童顔で小柄な体格。
見えて高校生ぐらいの容姿。
役職の身体基準もギリギリであり、いくら警察とはいい、自分は強そうに見えない。
奏は苦笑した。

「貴方は確かに、見た目は僕より弱そうだ」

ハッキリと言ってくれるな・・・

「だけれど、何となくわかるんです。貴方は優しい人ですから」

ズバリと言われて真夏は妙に照れくさくなった。
だが、奏は真剣な目で見返してくる。

「それに、周りに刑事さんがいた方が、現行犯逮捕はできますよね?」
「・・・。」
「お願いです、助けてください」

真夏は言葉が思いつかなかった。
ただ、頭を下げる相手を見返すだけ・・・
その姿を見ているとしばらく忘れていた疑問が甦ってきた。

(そういえば、)

なぜ自分は刑事になったのか・・・?

『お兄ちゃん、なんだかそれっぽいよね』

昔に弟がそう言ったのを思い出す。

『そうか?』
『うん、なんだかとってもカッコよく見えるときがあるっ!』

キラキラとした純粋な目でそう言われて、真夏もまんざらでもなかった。
真夏は弟である真冬を誰よりも可愛がっていた。
弟が頼りないから自分がしっかりしなければならなかったし、何より血を分けた唯一の兄弟である。

『オレの探し物とか見つかるまで一生懸命に探してくれるしさ、お兄ちゃんの根性はスゲーと思うよ』
『いやそれは普通かと思うが・・・』
『あ、でも、人と話す時は丁寧にですます語で喋らないと、警察手帳持ってるときにそんな調子だったら怖がられるぜ?』
『結局はそれが言いたかっただけだろ?』
『あははっ』

その後に真夏は警察の仲間入りとなったのだが、きっかけは弟の言葉だったのかもしれない。
真夏の就職には両親も歓迎してくれたし、あの頃は世界が輝いていた。
警察にも淡い幻想を抱いていたのかもしれないが、仕事で外を駈けずり回るのにも確かな充実感を覚えていた。

・・・そう、あの日までは・・・

大掛かりな事件捜査に初めて加わったときだ。
丁度、家族旅行を計画していた時期と被ってしまい、自分は仕事に向かった。
だが家族の旅行先でテロが起きてしまい、駆けつけたときには家族全員が遺体になっていたのだ。
無機質な白い部屋に並ぶ、いくつもの見覚えがある遺体・・・それを目にした瞬間に自分の存在意義を見失った。

自分は何のために警察になったのだろうか?

そのテロというのは、自分たちが追っていた犯人によるものだったのだから、悔やんでも悔やみきれない。
その後は根性で逮捕までこぎつけたものの、それによって家族が生き返るわけでもなかった。
そして・・・仕事の成果を挙げた成績が認められ、刑事一課に移転してもその疑問は拭い去れなかった。
自分が欲しかったのはこんな名誉でも、地位でもない。
市民どころか、身近な命一つ守れなかった人間。

それが自分。

何一つ大事なものが守れなかった人間。
これから守ってゆくものさえ見つからない自分。

「真夏さん?」

ハッとして思考の海から目を覚ますと、真夏は振り返って奏を見上げる。
気がつけばドアの前で立ち尽くしていた。
場所は真夏の自宅となっているマンション。
家族を失い、天涯孤独の身となった人間のよりどころである。
真夏はあの後、奏の頼みを引き受けたのであった。

 

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